加藤健一事務所公演「滝沢家の内乱」の仕事を通じて、馬琴さんの事を色々と勉強しました。頑固でケチで傲慢。隣の家に行くにも正装して出かける大変人。絶対つきあいたくない人物ですわ。しかしこういう人ほどとんでもないモノを書くのも事実。それがあの「里見八犬伝」。書くのに28年かかってます。1814年に刊行されて完結が1842年、全98巻、106冊の超弩級大作。書いてた時の年齢が47歳〜75歳、江戸時代なら普通お亡くなりになってます。そのお年で現役ってのもスゴいですが、さらに73歳で失明しちゃったのに完成させるのがまたスゴい。失明して(白内障らしいです。今なら治ってますね)どうやって書いたのかと言うと、口述筆記です。口でしゃべったのを横で聞いて書き写すわけですね。最後の2年間、まとめのとこですよ。頭の中で98巻に渡って撒いた種がもれなく完遂したんでしょうか?おおまかなあらすじは書いてあったんでしょうか?気になります。気になりますが全部読むパワーは…いつか…。
それで、この口述筆記を頼んだのが息子の嫁のお路(みち)。頼んだもののこの方、文章能力が極めて低かった。なんたって漢字が書けない知らない。お路の書いた本物を見たんですが、最初のはそれこそミミズがはったような字でひどいもんです。それが七ヵ月後には馬琴と変わらないレベルまで上がっていました。江戸の女もやるもんです。このお路も調べていくとけっこう逞しく打たれ強い性格。そうじゃなきゃやっていけないですよね。馬琴はお路の性格や努力をわかっていて頼んだと思いますが、他人に頼まないのはやっぱり大変人ですね。
馬琴の資料をネットとかで探している中で、面白いモノを見つけてつい買っちゃいました。「里見八犬伝」第四輯。
馬琴さんが油がのってる頃の現物和本の復刻版です。馬琴の書いた元本と出版された本と2冊セットになっていて比較できて面白いです。これを見ると驚くべきことに、元本に絵の下絵も馬琴さんが事細かく描いてます。「ここまでやるのか」ビックリしました。しかも味があって浮世絵画家の柳川重信が書いた本物よりいいぐらいです。
さらに赤字で細かい指示出してます。カモメ、雲、アシ、水。この本の後半には力持ちの犬田小文吾が子供の頃に大人と相撲とった下りがあるんですが、小文吾の左足にちゃんと、タケ五尺九寸と指示出てます。細かい…しかしイメージが全て頭の中でできてるんしょうねぇ。素晴らしいです。ただ仕事がやりにくそう。上の犬塚信乃と犬飼見八が屋根の上でからんでるシーン。馬琴さんのはイラストっぽくて好きです。よく見るとお互いの髪を引っ張り合っててこどもの喧嘩みたいでユーモラス、かたや重信さんのは二人の位置を替えて躍動感あふれる構図にしてます。さすがに髪の毛引っ張り合いはしたくなかったのかな?浮世絵画家の意地ですかねぇ。バトルしてます。