お芝居の仕事をしていると再演の作品に出会う事も多いんです。今年やっているモノの中にも「賭け」「リチャード三世」「もやしの唄」と三本も入っています。あっ初演は関わってないんですが、今やってるカトケンさんの「川を越えて、森を抜けて」もそうですね。初演はもちろん勢いがあっていいんですが、再演ってほとんどと言っていいほどより良くなるように感じます。スタッフもキャストも課題がわかっているからなんでしょうか、ちょこちょこした穴が塞がれて、役者も登場人物に入りやすくなり、芝居がまろやかになる。勝手にそう思っています。
テアトル・エコーの次回作の再演「もやしの唄」は初演が2004年。この作品は岸田國士戯曲賞(小川未玲さん)にノミネートされました。昭和30年代、高度成長期の真只中で、気の遠くなるような手間をかけながら、休むことなくもやしを作り続けた、ちいさなもやし屋「泉商店」の家族の物語です。小川未玲さんのご親戚がやられていたという話を聞いた気がします。当時、もやし屋さんがあった事はちっとも知りませんでしたが、二十世紀少年や三丁目と同じ昭和の良き香りがぷんぷんした懐かしくも愛すべきお話です。あと面白いのは装置に井戸があって本物の水が出ます。けっこうジャバジャバ出ます。驚きますよ。奈落のあるエコー劇場ならではですね。でもどうやったらあんなに水が出るのか…必見です。
テアトル・エコー 6月1日〜13日 恵比寿・エコー劇場
で、チラシ。再演となるとチラシの雰囲気をガラッと変える場合もありますが、今回のチラシは前回のものを元にちょっとリメイクすることにしました。プリントゴッコで描いた花岡道子さんのイラストがとても良かったからです。
タイトルも大きさは変えましたが以前のもの。このもやし本物です。もやしをたくさん買って来て事務所で撮影しました。当時はフィルム(アナログ)、そして1発撮影、合成じゃございません。(今考えると1発じゃなくてもいいんですが1発は1発の逃げ場のない良さがありますね)だから再演だって再々演だって使わなきゃ!
その撮影時の日記から…
部屋に入った途端、なんともいえない青くさ〜い匂いが鼻を襲った。
「も、もやしかぁ!」見ると足下にブルーシートが敷かれ、大量のもやしが部屋中にばらまかれている。そこでカメラのMさん、カメアシのNさん、そして事務所のS。3人の女鳩が手をもやしまみれにしながら、一生懸命にもやしの字を捜索していた。「あっ市川さん!時間が立っちゃうと変色しちゃうので“や”やってください!はやく!はやく!」自分の担当の“も”をいち早く完成させたSが自慢げに追い立てる。あわててはいつくばり、もやし戦闘モードに入らざるをえなかった。が、すでにいいカーブのもやし君たちは女鳩共に蹂躙しつくされ、直立不動君しか見つからない。あ〜あせる〜。そのうちにトランプの上がりコールのように
「できた!これよくなくない?唄に見えるよね。唄は難しいよ〜」
「あった〜この“の”もどう?」「いいのあったじゃ〜ん」とさらにあせりを誘うウキウキ声が飛び込んでくる。そしてついに、信じられないお言葉が突き刺さった。「とりあえず“や”抜かしてポラきります!」
このとりあえずってやつが一番怖い。
部屋はもやしとオレを置き去りにして暗くなった。
今はデジタルだし、ポラもないしけど、限られた失敗の出来ない事って大切ですね。そうそうオレの“や”はMさんが見つけてくれて無事おさまりました。今回これみて薔薇とか作ったらという友人がいましたが、そもそももやしで薔薇作るって意味ないし…