市川きよあき事務所

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グラフィックデザイン

演劇

役と役の間をわざと歩く

小宮さんの怒涛のひとり芝居三本立てが終わりました。70分、90分、110分、合わせて4時間30分。恐れ入ります。結局「線路は〜」の一本だけ観たのですが、この芝居で新たな発見がありました。
それは歩いて役柄を変えるという試みです。
具体的にいうと、
駅長と小宮助役の会話(台詞は適当です)

下手前に駅長立っている。
駅長「小宮く〜ん、日誌どこにしまったかな?」
5歩上手奥に歩いて移動、振り向いて
小宮「あれ、金庫になかったですか」
5歩下手前に歩いて戻って振り向いて、駅長台詞…

この5歩歩く間は駅長でも助役でもない。素か無です。最初は観ていてとても違和感がありました。落語の手法に近いんですが、落語は動かないんで違う人物に変わる時間がほとんどない。それに対して今回のは歩き移動なんで長い。お客さんも歩いている間は待っているしかない。
               
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舞台写真 御堂義乗さん  7〜8歩も歩けば横ぎれてしまう小さな劇場。 

劇評なんか読むと、これなら二人でやるか、演出方法を考えた方がいい。という意見もあったんですが、ところがどっこい、この歩いて役柄を変えるのが演出家鄭さんの狙いなのです。従来の演出に慣れすぎた評論家にはわからなかったんでしょう。わざとじゃなくこんな事やるわけがない。この歩き移動は最初はイライラしますが、次第に気にならなくなります。なぜか?答えは簡単、徐々に距離を短くしてるから。30もの役で広がっていった芝居が、進むにつれ駅長夫婦に焦点があたり、夫婦を中心に狭く深くなっていきます。それに合わせて歩く距離も短くなっていき、観客の感情移入も近く深くなっていくのです。小宮さんに聞いたところ
「演ってる方は歩いてる間、ものすごく恥ずかしいんだよ。」
「歩き移動のダメだしが多くって…」
わざと歩く。ちょっとビックリしましたが、やられました。