いよいよほっぺたがピリピリするくらい寒くなってきた。帰り道にわき目もふらずチャッチャカ歩く時もあれば、ダラダラあーでもないこーでもないと、なんとなく考えて歩く時もある。この間はあーでもないの日だった。あーでもない時は冬の色んな音がよく聞こえてくる。メインは人を建物の中に押しやる冷たい風の音だ。夜10時を過ぎていたから尚更だった。風は木々の間をすり抜け、枝にふんばってついている葉っぱを落とすのに一生懸命。アスファルトの地面にはあきらめた葉っぱがクルンクルンしている。
今は枯れた生気のないコゲ茶の世界に見えているが、あと3カ月もすると全てがキミドリ色の生命力で埋め尽くされる。この繰り返しが1年なのだ。年々この繰り返しが不思議に思えてきてならない。自分が繰り返さないからだろうか。
家へは駅から一本道。最後に右へ曲がったらあとはいくらもない。
その最後の角の手前に、ものすごく大きな桜の木を囲んで建っているマンションがある。桜の幹の一番太い部分は4mくらいはあるだろうか。保存樹木クラスだ。桜の季節が楽しみなんだが、マンションが桜を囲むように出来てからはあまり楽しめなくなった。仲間はずれにされたようでなんだかシャクにさわる。
桜まで来た、あと少し。
今晩も寒風の中、桜は堂々としてるな、
そう感じた時、マンションの外にある、四角い金属のゴミ箱横の暗がりからガサコソ音がする。
「猫かな」と思って立ち止まった。
猫が年々好きになり道々の猫を見ずにはいられない。
ポケットの中から携帯を出して光を当ててみる。
小さい、子猫かな…子猫とわかるとよけい見たくなる。
今度は携帯のカメラにして撮影ライトで照らしてみた。
「額の真ん中に真っ白なラインが」
鼻立てすぎでしょ って
「ハクビシンだ」
一昨年の秋にいちじくを食いあさっている姿をチラッと見たことはあっても、
こんなに近くで見たのははじめてだ。
顔、手足、しっぽは黒く、胴体はグレー。体長は30cmくらい。子供だ。
「カワイイ」
しかしこんな寒空に大丈夫なんだろうか? 0度ですよ、たぶん。
田舎ではクマが人里に、都会ではハクビシンがマンションに出没する。
いやハクビシンがいる時点でもはや田舎グループに入っているのかな。
調べてみると駆除される動物らしく、嫌われものらしいが元は人間が放したものだろう。なんとか冬をどこかで乗り越えてほしい。
野良犬はいなくなり、外にいる動物といえば野良猫だけなので、違うイキモノに出会うとなんだか嬉しくなる。
帰り道はダラダラあーでもないで帰ろう。