この間、和田誠展を見に行ってきました。たいがいの人は「あぁ線画の似顔絵描く人ね」くらいか、芸能通は「平野レミさんの旦那さんだよね〜」くらいにしか思ってないでしょうが、大変な大変な才人です。そしてこんなにモノの特徴を掴むのがうまい人は後にも先にも和田誠さんだけでしょう。
最初に和田誠さんを知ったのは子どもの頃、親が妹に買ってきた「ケンはへっちゃら」という絵本でした。
まず、へっちゃらという言葉にやられちゃいました。子どもの時って言葉にやられちゃうんですよね。オナラとかって言葉聞いちゃうとはしゃいじゃうのとちょっと似てるかも。似てないか…。それと主人公ケンのポケットから色んなモノが出てくるのが面白かった。次にどどどっぷりはまったのが「お楽しみはこれからだ」。
ボロボロです。読み倒しました。
これは当時「キネマ旬報」で連載していたんです。映画の名セリフシーンを1ページずつイラスト解説していまして自分が映画を観る時のバイブルでした。情報もなくDVDのない時代だったんで「お楽しみはこれからだ」に登場する映画がいつか観たい映画で憧れでした。高校1年の時です。本に何度も登場するビリーワイルダーの作品をどうしても観たくって、東京に行ったほどです。文芸座のオールナイトを観て帰ってきました。
その後東京で大学生活するようになり、おじさんに勧められた本がこれ
「倫敦巴里」
空前絶後、ものすごい本です。これ以上の本に出会った事がない。普通の本の20倍くらい内容が詰まってる。説明しても足りないからぜひ買ってほしい!オレももう何冊か欲しい。と思ったらヤフオクでけっこうなお値段。でも買ってほしい、絶対損しないです。映画や小説好きにはぜひ。で、どんな本かというと一口で言うと贋作集。贋作なんですが贋作具合がスゴい。たとえば誰もが知ってる「兎と亀」のお話。これを世界の映画監督が映画を撮ったらどうなるのか?ジョン・フォード、市川崑、ヒッチコック、黒澤明、ベルイマン、山田洋次などなど、いかにもその監督が撮りそうな感じで脚本が書かれてる。イラストじゃないじゃない!そう和田さんの贋作はイラストだけじゃないんです。そして極めつけが川端康成の「雪国」。
まずオリジナルとして川端さんの似顔絵の下に、雪国の有名な冒頭が書かれています。そして贋作。いろんな作家の似顔絵が描いてある。そこまでは普通です。和田さんのスゴいのはその何十人もの作家の文体、あるいは言いそうな文体で雪国を書いている事です。野坂昭如、植草甚一、淀川長治、永六輔、大藪春彦、五木寛之、井上ひさし、横溝正史、司馬遼太郎、村上龍、谷川俊太郎、などなど…
つかこうへい 井上ひさし
五木寛之 横溝正史
ほかにもビートルズのメンバーを色んな画家、ゴッホやシャガールやルソーのタッチで描いてあったり、007を色んな四コマ漫画家のタッチで描いてあったりと、お腹がパンパンになる1冊です。誰も敵わないですね。
デザイナーの仕事をするようになって1度だけお仕事頼んだ事があるんですが、和田誠さんってデザインも自分でやらないとダメなんです。そうすると自分の仕事が無くなっちゃうんであきらめました。
個展の話に戻りますが、個展の中に演劇のポスターがあったんです。そしてその横に版下が展示してありました。創作過程がわかるようになってるんでしょう。デジタルの時代になり版下というモノが無くなってもう15年は経ちます。懐かしいなぁとシミジミ見てたら、なんと、これからのお芝居じゃありませんか〜。まだ版下なんだ。と感激しましたよ。
こまつ座のデザインとシスカンパニーのデザインが一緒でいいのかな?とチラっと思いましたが和田さんのデザインはそういう枠を超越しちゃったとこにいるんでしょうねぇ。
会場を出たところで和田さんとすれ違いました。もう70も半ば過ぎてるんでしょうが、とってもとっても元気そうでした。思えば子どもの頃から、和田誠さんがはるか上から垂らすロープにしがみついて少しずつ登ってきたような気がしています。そのロープにつかまってさえすれば、面白いモノに当たり、好きなモノが見つかりました。恐れ多いのですが、同じ職種で、同じ演劇の土俵にもいるので、和田さんの目にとまるようなデザインを心がけたいです。