市川きよあき事務所

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グラフィックデザイン

日記

金環日食の前日

梅が香り、蕗の薹が顔をのぞかせ、桜を見上げ、蕗が傘を広げ、ツツジが騒ぎはじめ、緑はグングン街中を覆いつくし、日陰はドクダミの天下になり、やがて紫陽花が雨を連れてやってくる。いまはジメジメ前の爽やかを肌で感じられる季節。ひたすら明るさを求め広げていくのが1年の前半。折り返しまで太陽がしっかり後押ししてくれる。
これが毎年の事。あたり前だった、移り変わりの大切さや不思議さを感じる気持ちは年々深くなる。イレギュラーがあると尚更だ。
173年ぶりの日食がそうだったんだが話はその前日、季節というより人の話。およそ15年ぶりくらいにバッタリ古い仲間に会った。20〜24の間は毎日のように会ってたヤツだけど、15年前一言交わしただけでその前もずいぶん会っていない。彼が役者やレポーターやりながら、師匠の飲み屋を手伝っているのは知っていた。24くらいから現在にいたるまでで2度目、日食なみだ。

上野の居酒屋「たる松」の2階の白木のカウンター。カウンターのUの字のカーブとカーブ、1メートルの至近距離。目の前の顔が気になり思考が止まる。頭の中の記憶のファインダーがズームを合わせる。3秒。
「あっ」思わずカウンター叩いちゃった。犯人見つけた刑事かオレは。
「おっ、おい!」「やっぱり」「これは何かね?」「上野よく来るの?」
「いや、何年かぶり」「そっちは」「オレはよく飲んでる」
「何かあるな」「どっちか死ぬんじゃない」「ほんで何年かしてから片方が知ってあとでビックリするんだよ あの時オレ偶然会ったんだよ」

「あいつどうした?」お互い連れがいたんで気づかいながら、昔の仲間の現在確認とくだらない思い出話でくすぐりあう。
すっかり忘れていたが参宮橋の飲み屋の話が面白かった。彼やモロ、下等なんかと飲んで、いざ会計となったら皆お金がない。貧乏だったこともあるし、誰か持ってるだろうとお互いが高〜くくってたこともある。さぁどうしよう、昔のことでクレジットカードなんて持ってないし銀行はとっくに閉まっている。免許証置いてって明日誰かが持ってこようか、なんて話にもなり酔いも醒めてくる。とにかくチャリ銭全て出して計算しようということになり、皆でポケットというポケット、鞄の底という底探して5円、1円まで出したら、なんとかなった。お店の人はイヤな顔したが、なんとかなった。なったが文字通り1文なしなんで家に帰れない。どうする?歩いて帰るかってションボリ話してトボトボ歩きだしたら、一緒に飲んでたYせさんが、じゃッと言って終電迫る駅に消えていくではないか。
アレッYせさん、電車賃持ってたの?って聞くと一言「えっ別じゃない」

次の日の朝、紙で出来た安っぽいメガネをかけて、太陽見てたらこみあげてきて思い出し笑いした。太陽は皆が集めた硬貨のように光ってた。
「別じゃない」のYせさんや皆を誘って彼のいるお店に飲みに行こう。