市川きよあき事務所

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グラフィックデザイン

演劇

つかこうへいさんが好きでした。

つかさんの本の中のお話なんですが、お葬式で「友よ」とだけ書かれた遺書が出てきて、参列者みんなが「友よ」を深読みして悩むバカバカしく面白い話があります。
つかさんの遺書は「娘に日本と韓国の間、対馬海峡あたりで散骨してもらおうと思っています。」という一文が入ったものでした。いつかこうへいになる、だからつかこうへい。韓国籍を貫いたつかさんは差別や、民族意識を強く持ってらしたのかな。ワタシが学生の頃、つか芝居に夢中になっていた時には全くわかりませんでした。パワフルで思いっきり笑えて、エンターテインメントが詰まってる芝居。衝撃的でした。唐十郎や天井桟敷のいわゆるアングラにはもうひとつ馴染めなかったんですが、つか芝居はすぐトリコになりました。前にも日記にあげましたが、はじめて観たのが「熱海殺人事件」。紀伊國屋ホールです。三浦洋一の伝兵衛、加藤健一の大山金太郎、井上加奈子がハナ子を演ってました。装置もなく衣裳もシンプル。演出にも驚かされました。舞台上から三浦伝兵衛が「犯人はお前だ!」と叫ぶやいなや、どでかいスポットを操作し、サーチライトのように客席に向けてあてたんです。それが上手通路奥よりに座ってたワタシの真ん前。突然ピカ~っと周辺が明るくなり、「えっ、ナニナニっ…」とドギマギしていると、3列前に座っていた白いつなぎ姿のカトケン金太郎が、片手にマイク片手に真っ赤なバラを数本持ちスクッとに立ち上がりました。「ナ、ナ、ナ、ナ、…」またドギマギしていると、「マイウェイ」をすてきなバリトンで歌いながら、バラをファンに渡し渡しステージに上がっていったんです。芯からやられました。打ち抜かれました。つか芝居って今思うと浪速だし、ものすんごくクサいし、リアルとはかけ離れているんですが、その津波のように襲ってくるクサさがまたたまらなくてヤミツキになっちゃうんです。グサッっと追い打ちかける熱のあるクサい台詞で根こそぎやられちゃう。そのグサッが楽しみで観に行くんでしょうね。当時はあこがれでカリスマでした。

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このチラシは観たものとは違うかもしれないですがイラストは本の装丁も含めいつも和田誠さん。

初期代表作のひとつ「初級革命講座 飛龍伝」は高田馬場の東芸で観ました。平田満、加藤健一、井上加奈子、石丸謙二郎のキャスト、ベストです。電話ボックスのシーンの長台詞がたまらなかったです。東京乾電池に出ていた角替和枝さんが客席係をやっていたのを覚えています。小説なんかもつかさんのが出るとすぐ買ってました。好きだったのが「ジャイアンツは負けない」。野球オンチという設定のつかさん自身が主人公なんですが、ドラフトでなんとジャイアンツ1位指名、しかも監督として。ゲラゲラ笑いました。王さんが選手としてまだいて、王さんとのヤリトリなんて最高です、後半ぐちゃぐちゃで収集着かなくなるんですが、それもまたつかさんの魅力ですね。
最近のつか芝居はなんだか女優の勉強の場みたいな雰囲気がしちゃってたのと「熱海」と「飛龍伝」を超えるモノがないような気がして観に行かなかったんですが、どうだったんでしょうね。健在だったのでしょうか?
それとこうへいになったのでしょうか。かつてのつかマニアとしては日本と韓国の事を書かれたモノも読まなければいけません。つかさんのテンション高くデカい声でクサい台詞をたたみかけて最短距離で心に届く芝居が観られなくなると思うと寂しい限りです。自分が演劇のはじっこを齧ってた時代が本当に思い出になってしまいました。