市川きよあき事務所

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グラフィックデザイン

演劇

舞台の裏方についていて大失敗したこと。

先日国立劇場で前進座のお芝居を観てきました。前進座といえば、二十二三の頃、まだデザインのデの字も知らない頃に、前進座の演出部の仕事についたことがあります。
そしてとんでもない大失敗をした苦い経験も…
歌舞伎の「傾城反魂香」と「遠山の金さん」の2本立て。
「遠山の金さん」ではお白州の場面で金さんが出てくる所の自動ドアの上手側を担当しました。最初の金さん登場のシーンでは花道の揚げ幕もやったんです。
舞台上では娘さんが悪者に手込めにされかかっていて、必死で金さんの助けを呼びます。
「きゃー」「助けて~金さ~ん」「金さ~ん」「助けて~」
花道入口控えの間の梅之助さん、すぐに助けなんかいきません。
じらしにじらしまして ここぞという時に私に合図があり、揚げ幕のチャリンという小気味よい音とともに登場です。
お客さんは娘さんの危機なんかそっちのけで金さんに大拍手。
悪者もストップモーションです。
金さんも出たもののすぐに助けにはいかず手ぬぐい配ったり…

で、失敗した方は歌舞伎の方なんです。
「傾城反魂香」は「ども又」という名でも愛されている演目です。
ざっくりストーリーを言うと、絵師でどもりの又平はその吃音のせいもあり長年師匠の苗字を名乗ることを許してもらえません。苗字を名乗ってはじめて一人前と認められ絵師として身を立てられるのです。しかも師匠は絵師としての手柄を立てない限り苗字は授けられないと高いハードルを与えました。そこへ、弟弟子が屏風から抜け出た虎を筆で消すというすごいことをしたため、先に苗字を許されてしまいます。すっかり絶望した又平は死を決意しました。そしてこの世の名残に手水鉢へ自画像を描いたところ、この絵が手水鉢の裏側から表に浮き出る奇跡が起こります。これにより又平は、苗字を授けられたのです。
お分かりでしょうか、屏風から抜け出る虎、そして手水鉢の中に潜り込み、浮き出る自画像を描く役目でした。
又平は梅之助さんです。手水鉢の方は、梅之助さんの「うんっ」という声の合図とともに、自画像を描く動きを背中で感じ、少し遅れて手水鉢の前に貼ってある和紙に中から筆で日本画風に描きます。
墨汁にアルコールを少し混ぜてあり、微妙にふわ~っと絵が遅れて浮き上がるものですから、お客さんは絵がでた瞬間大喝采。気持ち良かったです。
で、失敗はそのリハーサルの時、芝居で言うとゲネプロ。
上手舞台前にある手水鉢。狭いながらもステキな我が家…って感じで、人一人入れるだけのスペースを仕事しやすいように過ごしやすいように細工してました。お芝居の途中で、ケコミからスッと黒子衣裳で手水鉢に入るんですが、いったん入ったら30分くらいはいなくちゃいけないので、筆差し、墨汁入れ、飴なんか置いておくとこ、すんごい小さな時計掛けたり…そうこの時計が間違いでした。
ゲネプロ最中にアラームが…チチッ…チチッ…チチッ…チチッ ん? なんだこの音? ギョエ~
その時は上手袖にいたんですが血の気が引きました。下手袖を見ると、舞台監督がカンカンになってるのが見え、あわててアラームを止めに入りました。怒られたなぁ。ゲネプロで良かったですよホント。

久々に観た梅之助さんは79歳。かくしゃくとしてらっしゃいました。格好良かったです。
まだまだお元気で頑張ってください。