八月の終わりのことだった。お昼を食べに行こうと事務所のドアを開けると、目の前にお隣の女の子が立っていた。
「こんにちは」「…コンニチハ…」いつものように挨拶をして、すりぬけようとしたんだけど、動かずモジモジしている。
「どうしたの?」と聞くと、うつむいてにじり寄って来て、なんだか言いにくそうに
「あのね…」
「…どうしたの?」
「あのね、…アサガオを預かってほしいの…」
…アサガオ?あぁ、わかった、通路に置いてあるアサガオのことか…
「いいよ、お水あげればいいの?」「ウン」
「旅行に行くの?」「ウン」
すごく嬉しそうな笑顔を見せた。
彼女の最大の心配事はなくなったが、こちらは責任重大だ。アサガオを見ると半分くらいの葉っぱが黄色い…もしや枯れかけているのか?夕方、事務所にあった観葉植物用の栄養剤をあげ、三日間は早く来た。そのおかげもあったのかなかったのかアサガオは枯れずにすみ、帰ってきた彼女からのお土産も気持ちよくもらうことができた。
先週の金曜日のこと、玄関でコンニチハ〜と元気のよい声がする。またお隣の子だなっと思ってドアを開けると、今度は彼女と同じ年頃の友達が一緒で紙の筒のようなものを差し出した。
「ポップコーン、作りたてだよ」「シオ、シオ」友達の合いの手が入る。
「ありがと〜、お友達?」
「ウン、同じクラス」「へえ〜、何年生?」
「1年生!小学1年生!」友達の方が答える。
「えぇッ、大学生かと思ったよ」
「なわけないじゃん、こんな大学生いないよ〜」反応がけっこう早い.
「学校始まっちゃって大変だね〜?」と同情すると
「楽しいよ〜!二学期だよ!でも今日は本の感想で大変だった〜」「ね〜」
二人はポップコーンを渡す任務を終えて楽しそうに笑いながらお隣に戻った。
お隣の子は1年生だったのか…学校は楽しいらしい…楽しいのか学校は?。
そんなこんなを考えながら、ポップコーンをつまみ、どうだったかな自分の小学1年生の時はと遠い記憶を辿っていてハッと思いだした。
1年生だからアサガオだったんだ。
宿題のお手伝いをほんの少ししたような気にもなり嬉しくなった。