大学から東京に住むようになったんですが、受験のために上石神井の叔父さんのアパートに1週間ほどいました。まだ10代、その時のことです。叔父さんも1日中甥っ子の面倒もみてられないので鍵を一個借りて、ひとりの時は晩御飯なんかも適当に食べてました。
その日も晩は食べたんですが夜になって無性にお腹がすいてきました。叔父さんは飲みにいってるらしく帰ってこないし、お店やスーパーは閉まっているし、コンビニなんて便利なものはないし、何時頃だったんだろ?9時か10時だったのかな。しばらく近所をふらふら歩いてると、「小料理 ○○おにぎり」 という看板が目に入ってきました。子供でも飲み屋だということぐらいはわかります。そして、おにぎりがあることはすんごくわかります。
結局、空腹に負け、おにぎりというステキな響きの魅力に勝てず、おそるおそるお店の戸を引きました。
「いらっしゃい」
美人のママさん二人、姉妹かな? カウンターのみの小さな店に常連さんらしきオヤジが三人くらい。
一斉に視線を感じたんですが、眼を伏せて入口に一番近い席に座り、
「すみません、おにぎりだけでもいいですか」と早口で注文しました。
今だったら絶対できません。若気もそうとうイタっておりましたよ。
「どうぞ、だいじょうぶですよ」
やさしく迎えいれていただき、お茶とおしぼりがでてきました。
しかし、居心地の悪いこと悪いこと。
しばらくして、出来立ての美味しそうなおにぎりと味噌汁がきました。食べることで居心地の悪さが少し薄まったのです。ワタシのなんとなく落ち着いた頃をみはからって隣のオジさんが話しかけてきました。
やさしそうな感じのいい人です。
オジさんといっても30代後半~40才くらいでしょうか
飲まない受験生が一人小料理屋に入ってきた。
ものめずらしかったんでしょう。
「いくつ~」とか「どこ出身」とかあたりさわりのないこと聞かれたあと、
突然今日オレの誕生日なんだけど一軒付き合って と誘われました。
ちょっとたじろいでいると、ママさんがだいじょぷよと後押ししてくれる。
そこでなんとなくオジさんについて近所のスナックに行きました。
誕生日ケーキがあったり、お祝いムード満点。
ワタシはというと、やっぱり居心地が悪く居場所もなく
はじめて会う大人達とあたりさわりのない会話をしてました。
そのうちオジさんが「そろそろ君は帰るかい」といって
おにぎり屋の方まで送ってくれたのですが、別れる時に
「これから東京か、ガンバって」といってオサツをくれたのです。
見ると1万円でした。「だっだめです!いいですよ、もらえないです」と
何度も断ったのですが
「今日つきあってもらったからいいよ。ガンバって」と手に押しつけて
スナックに戻って行きました。
オジさんとはそれっきりです。
今の自分はオジさんの年齢を追い越しましたが
あの時の「ガンバって」にまだ応えられてない気がしていて
いつも思い出し、励まされます。