市川きよあき事務所

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グラフィックデザイン

日記

デザイナーになる前にした仕事 その1

デザイナーになる前はいろんなバイトというか仕事をしました。
その中で一番強烈なのがコレ

『ジャンケンマン』

その頃イベント会社の管理的なバイトしてました。ある日事務所にいくと会社の人が困った顔でワタシに言うんです。
「ゴメ~ン、いつも頼んでいるヤツが急に熱出しちゃって…行ってくれるかな」
「…いいですけど、何ですか?」
「あ~カンタンカンタン長崎屋行ってちょっと子供たちとジャンケンやって盛り上げるだけたから」
「ハァ~」
「今日は倍出すから」
倍ってなんて魅力的な言葉でしょう。あとさき考えず引き受けてしまいました。不幸の始まりです。
「ありがと~じゃ衣装これだから」
渡されたのは黄色い全身タイツと金だらい。「……」
金だらいの底に赤青黄のグーチョキパーが、いかにも手作りって感じで着いてます。フランス陸軍のように逆にして被るんでしょうか、アゴヒモがついてます。
「時間ないからさぁ。すぐコレ持って行ってくれる。向こうに景品とかメイク道具とかあるから」
覚悟を決めたワタシは金だらいを持って、山手線中央線を乗り継ぎ現地へ向かいました。

店舗に着くと控え室というか隅っこで着替え、顔を田舎芝居の間抜け役のようにドーランをぬりたくり金だらいを被りました。
鏡に写すと、そこには見たこともないマヌケなヤツがいます。キャラクターのわかる、唯一のグーチョキパーが布製のためダラリとして体をなしてません。
「ジャンケンマンって言わなきゃわかんないな…」
あまりの姿に呆然としましたが、すぐに出番だったので与えられたちっちゃいラジカセとA4くらいの景品箱持って場所に向かいました。景品っていったってつまんないガラガラレベルです。

長崎屋さんの一階正面横で11時と3時にワゴンセールがあり、じゃまにならないはじっこでジャンケンするのが仕事でした。セールの盛り上げ役といった役どころだと思うんですが…。
「いつ、どのタイミングで始めるんだろう」不安です。
MCなし、紹介アナウンスなし、マイクなし、キッカケもなし、もっとも過酷だったのは台がないことでした。ビールケースでもいいんです。ちょっと台があれば誰かが注目してくれてジャンケンが始められます。よくリンゴ箱営業って聞きますが、地面ベタほど辛いこたぁないです。海抜0mの恐ろしさ。
気分は超どんより半泣きでした。
軽やかなアナウンスとともに隣でワゴンセールが始まりました。ワタシのことは気持ち悪がって誰も近寄ってきません。
おかしい人がいるくらいしか映ってないのかもしれません。
始めどきがわかりません。勇気を振り絞りラジカセつけましたが、楽しそうな音楽が流れるだけ。せめて「ジャンケンマンが来たよ~」くらい入っててくれれば…
これが社員教育研修だったら間違いなく辞めるよ。

思いきって声出しました。
「ジャンケンやらな~い」「ジャンケンどうですか~」
どうですって言われても唐突じゃない。
あ~地獄だ~。
10分くらいたったでしょうか。呼び続けても誰も通りかからず、声も小さくなり、体が氷ついてきて、いてもたってもいられなくなり、いよいよこりゃヤバイと思った瞬間、後ろからシリをおもいっきり蹴られました。
悪ガキです。
「変なヤツがいるぞ~!」なんか言われてまた蹴られました。

涙が出ました。ありがと~ツッコミ。ほんとに嬉しかったです。
ツッコミってこういうことだったのね。
キッカケがこんなに大切なんて。
「なんだよ~ジャンケンやってオレが負けたら景品やるよ」
「やるか~」「やるぞ~!」「ジャンケンポン!」
その子と始めたジャンケンの声につられて子供たちが集まりはじめました。
危機を乗り越えたのです。縮こまっていた全身が開放し、無心でジャンケンをしました。
ジャンケンの極意がそこにあったのです。

これから先どんな恥ずかしいことも、ジャンケンマンが出来たんだから我慢できると思いましたよホント。